映画学メモ
日本ではまだイマイチ馴染みの薄い「映画学」なるものを、イギリスの大学から実際の映画学の授業に沿うかたちで紹介していきたいと思います。まー気楽にいきましょう。
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映画学入門 Week6(その2)
というわけで、前回に引き続きシュールリアリズムやらPsychic Automatismやらのお話です。
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「アンダルシアの犬」(Un Chien Andalou)より

☆「アンダルシアの犬」ってどんな映画?
この「アンダルシアの犬」ってのは長さも15分くらいで短いですし、ぜひぜひ見ていただきたい映画なんですが、これってそこらへんで買ったり借りたりできるんでしょうか?仙台ではなかなか手に入らなかった印象があります。東京とかだったらありそうな気もするので、機会のある方はぜひ。

この映画、見ていない人のために説明しようにも、あらすじの説明とかが不可能な映画でありまして、見ていただくしかないんですよね。もしここで僕が無理やりあらすじを書き綴ったりしたら、みんな僕の頭がおかしいと思うこと請け合いです。そんな映画。前回のエントリーで、この映画はブニュエルとダリの夢を混ぜ合わせることによって生まれた、と書きましたが、ホント夢を見ているように、物理法則とか時間とか空間とかを無視して色んなことが起こるのです。

うちのガッコにはシュールリアリズム研究で有名なおばさまがいるのですが、彼女が面白いことを言っていまして「この映画は何回見ても、それぞれの場面をちゃんとした順番で思い出すことができない」んだそうです。確かにそうで、とあるシーンがあって、そのシーンがどこから派生したのか、って考えた時に、誰も覚えてないんですよねー。そこらへんも実に夢っぽくて素敵です。
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今回の画像もHKRちゃん


☆「アンダルシアの犬」はどこにいる?

ブニュエルの回想によりますと、この映画の封切り上映の際、ブニュエルはポケットに石をいっぱい詰めてスクリーンの後ろに隠れていたそうです。映画を見て怒った観客とその石で戦うつもりだったんだとか。
もうね、こんな感じ↓ですよ。
bunuel.jpg

でもまぁ実際はそんなことも起こらず(ちょっと起こってみてほしかった気分は否めませんが)、「アンダルシアの犬」は興行的にも(つまり、一般の観客に対しても)かなりの成功をおさめることになるわけですが、このエピソードを見ても、「アンダルシアの犬」がかなり当時の規格から外れていたことがうかがい知れますよね。それはブニュエル自身も分かっていたことのようです。

さて、

ここで翻って考えてみますと、ちょっと前にグリフィスと映画文法の確立ってのをやりましたよね。これによって、今のハリウッドにつながる「主流であり基準である映画文法」というのが確立されたわけです。メインストリーム・シネマってやつですね。そしてその後に「カリガリ博士」を題材にドイツ表現主義映画を、「戦艦ポチョムキン」を題材にソビエト・モンタージュを見てきました。これらは二つのムーブメントは、大きく見ると基準としての映画文法が確立されたことを受けての新たな表現方法の模索、またはそのメインストリームへの攻撃であったわけですが、両方とも「映画」という枠自体は攻撃したり、問い直すことはありませんでした。別な言い方をすると、「映画とはどうあるべきか?」を模索していたんですね。

でもここで「アンダルシアの犬」を考えてみると、これは果たして映画なのか?という問いが出てくるわけです。勿論作り手であるブニュエルやダリはこの作品を「映画」として紹介し、興行的にもそのように受け取られたわけですが、映画という枠組みそのものを問題化するような要素がとても多いわけですね。まぁ「何をもって映画とするか」、なんてのは意見が分かれるところですし、実際問題別に重要でもないと思うので結論を出す必要はないと思うのですが、「アンダルシアの犬」が「映画とはどうあるべきか?」ではなく「映画とは何か?」というところを問題にしていた(少なくともそういう要素をもっていた)ってのが大事なところだと思います。
andalou2.jpg

・例えば「物語」
グリフィス・カリガリ・ポチョムキン(これをとりあえず「他の三作品」と呼びますね)においては、物語・ストーリーというものがちゃんと存在しています。勿論テーマにおいても色んな重要な違いはあるのですが、どちらかというと「物語をどう語るか」というところに彼らのもっとも大事な新しさ、表現上の革新というのはありました。でも「アンダルシアの犬」においては物語というものが、そもそもあるのかないのかよーわからんという感じなんですよねー。何かは起こってる。んでそれは時間とともに進行しては行くんだけど、筋が全く通っていないし、一つ一つのエピソードの意味もよく分からないわけです。もしこれで全く何のストーリーもない、というんであれば「これは映画ではなーい!」で片付けられるわけですが、なまじそれが(定義できないかたちで)存在しているだけに、ストーリーという概念そのものを問い直すかたちになる、といえます。

・例えば「作者」というもの
この「なまじそれが(定義できないかたちで)存在している」というのは「作者」というものにも言えます。他の三作品にはグリフィス、ヴィエネ、エイゼンシュタインという監督・作者がちゃんといて、「これは誰それがつくった映画です」ってなことを言えるわけですが、「アンダルシアの犬」はどうか。まず作者としてクレジットされている人間が二人いる。ブニュエルとダリですね。さらに、ネタ元は彼らの見た夢です。しかも混ぜ合わされている。これは従来の、映画に限らず芸術全般における「作者」「アーティスト」といった存在にも疑問を投げかけるわけですね。これも、いるよーな、いないよーな、という話なわけです。
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これはシュールリアリズム全般においても言えることで、前回お話したPsychic Automatismなんてのも、自分が無意識的に考えることをかたちにすることによって、「作者」「天才」「アーティスト」といった個人主義的な概念を攻撃するっつう意味合いがあるんです。またブニュエルとダリのような共同制作ってのもシュールリアリズムの中では大事な概念でありまして、Exquisite Corpse(エクスクイジット・コープス)という彼らが考えた遊びがあるんですが、これは紙の半分を隠して誰かが絵を描き、それを見ないままに別のだれかが紙の残りの半分に、もう描いてある絵につながるように絵を描いて、全部できたら紙を開いてみてあらビックリ!ってやつです。「いつ どこで 誰が 何をした」ゲームみたいなもんですねー。
まぁやるのはシュールリアリストたちですから、やっぱりこんな絵になるんですが・・↓
ExquisiteCorpse1.gif

タングイ・マンレイ・モーリス・ミロのExquisite Corpse 1926

これ↑は僕も実際やったことがあるんですが、かなり楽しいです。

・・とまぁちょっと脱線しましたが、共同作業、という点でも「アンダルシアの犬」は映画的枠組みに疑問を投げかけるものであり、また疑いなくシュールリアリズムの一部であるわけです。

☆ポップであること

というわけで、映画的枠組みに疑問を提示するという「アンダルシアの犬」の側面を見てきたわけですが、一つ大事なことに、こういったことはこの映画が単に実験的で小難しくて一部の人しか楽しめない、ということを意味しません。むしろ逆で、上に書きましたようにこの映画は興行的にそこそこ成功していますし、少なくともブニュエルやダリはこの映画をみんなが楽しめるものとしてみんなに発信しようとしていたようです。

音楽なんかもステキなタンゴ音楽なんかが使われていて結構ポップな感じですし、映画の内容自体も何か滑稽だったり可笑しかったりするところがあるんです。

実験的な映画っていうとどうしても小難しくて見てる人のことを考えてねーようなものを思い浮かべてしまいがちですが、「アンダルシアの犬」(とシュールリアリズムそのもの)ってのはメディアの枠組みや表現の仕組みについて重要な実験をしながらも、見ている人が単純に楽しめることも目指していた、っていうのはぜひ覚えておいてください。

そういえばマン・レイが作った映画なんてのもあるんですが、これもジャンゴ・ラインハルトの音楽なんか使われていてとてもポップで面白かったです。



というわけで、もう一回くらい、まとめのエントリーを書こうと思います。「アンダルシアの犬」、機会があればぜひ見てみてくださいねー。シュールリアリズムの話をしていると、自分常に脱線の危機に晒されているので、なかなか怖いです。

ではでは。
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テーマ:映画 - ジャンル:学問・文化・芸術

コメント
この記事へのコメント
「アンダルシアの犬」の音楽
公開されたとき音楽はなかった、と3年前のLT121で言っていたよ。あとで誰かが付け足したようなことを言っていた。けど、詳しいことはわからず。実際のところ、どうなんだろうね。

アンダルシアの犬はすごいよね。実験的で挑戦的。私もとても好きな映画です。

ところで、ジャンゴの音楽が使われているマン・レイの映画って?もしかしてデュシャンも出演している映画ですか?
2005/12/03(土) 12:37:31 | URL | はねちゃ #-[ 編集]
Un Chien Andalou
はねちゃさん久しぶりの書き込みありがとう!

「アンダルシアの犬」の音楽ってどうなんだろね。俺は上映してる横でブニュエルが蓄音機から流してた、って聞いたことあるけど。なんかこっちで出回ってる「アンダルシアの犬」のビデオには、映画が2パターン入っててね、オリジナルの音楽と、80年代に誰かが後から別な音楽を付けたバージョンが入っているんだよね。後で誰かが付け足した、ってそのことじゃないかな?

でもこちらも確証はないや。

あと件のマン・レイの映画ってのは「Emak Bakia」ってやつです。デュシャンが出てたかどうかは分かんないなー。あの人だったら変装してるかも知れないじゃんね(笑)。パッと見デュシャンって分かる人はいなかったけど。

あとマン・レイは「ひとで(L'Etoile de Mer)」って映画も撮ってて、これもスゴク面白かったよー。

2005/12/03(土) 15:09:43 | URL | タカ@映画学メモの中に入ってる人 #6SWgxDAM[ 編集]
2種類あると言っていたいた!じゃー3年前のスクリーニングで流れたのは恐らく80年代のものだったんだね。ブニュエルが横から蓄音機で流していたというのは初めて聞いたよ。そうなんだ~。

調べてみたら、デュシャンが出演していた映画は邦題で「幕間」で、監督はルネ・クレールでした。マン・レイも俳優として出演していたみたい。マン・レイの映像って日本で見れるのかなぁ。アマゾンでもだめだった。どなたか知っていたら教えていただきたいです。
2005/12/07(水) 14:02:44 | URL | はねちゃ #-[ 編集]
>はねちゃさん
こんちはー。

デュシャンが出てる映画、俺も見てみたいなぁ。マン・レイの映画はあれですよ、前に紹介した「幻の洋画劇場」っていうウェブサイトで見れるよ。過去ログちょっと漁ってみて。ついこないだです。有料だけど、そんな高くはないと思うよ。
2005/12/08(木) 10:39:51 | URL | タカ@パリ行ってきます #6SWgxDAM[ 編集]
久しぶりです
 ご無沙汰です。ふと思い出して、楽しく読みました。
 映画館というものがそもそも「夢の空間」だと思います。夢の中で夢を見る。時間の不可逆性への裏切り、幾何学的空間への裏切り。老化したのか、ワーカホリックだからか、夢を見なくなってしまいました。だから、せめて映画という夢を真昼の暗闇で密かに楽しむことくらいたまにはしたいと思います。
 最近は「ルート181」や「あんにょんサヨナラ」など、良い意味で政治性の強い作品ばかりで若干食傷気味の所もあります。
 もちろん、「アンダルシア・・」には上記のそれとはまた別の強烈な政治性に満ちていますが。
 美というものがどのようにして政治性を帯びるのか?ここ数年の私の最大の関心事かもしれません。
 「意味形成性」の映画は、既成の先入観を破壊する効果を持っているので「わからない」と言われるのかもしれません。逆説的ですが「わからなさ」を楽しむこと、何も考えないで浸りきること、なのか?
 考証的蘊蓄はまるでないので、君への懐かしさ(大げさ過ぎ!)をこめて書いてみました。
 ところで、最近は仕事で疲れると「花とアリス」の少女たちの映像で、不純?にも、疲労回復をはかっています。
2006/03/14(火) 01:47:38 | URL | ヤドリギ金子 #-[ 編集]
アンダルシアのことなど
ヤドリギ先生お久しぶりです!
書き込みありがとうございました。

「アンダルシアの犬」というのは、いつになっても映画というものについて、ある種の本質を提示し続ける映画なのだと思います。

この映画については解釈や評論も多くありますが、個人的な印象としては、この映画が好きな人も嫌いな人も同じように「分かってはいない」わけで(笑)、どちらかというと「分からないこと」に対するその人の態度や考え方がこの映画にたいする反応を決めるのかな、と思ったりもしました。

美と政治性については、自分は最近シュバンクマイエルの文章や言葉に強く惹かれていて(もちろん彼の作品も好きですが)、その中に色々と示唆するものが多くあったように思います。

「花とアリス」気になっている映画ですが、まだ見れてません。日本に帰ったら見ようと思っております。
2006/03/14(火) 17:47:11 | URL | タカ@映画学メモ #6SWgxDAM[ 編集]
30代,40代の転職して管理栄養士になる
管理会計とは、企業内部の業績管理のために行なわれる会計のことをいう http://daring3.rcrane4law.com/
2008/12/02(火) 17:48:32 | URL | #-[ 編集]
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