「市民ケーン」とDeep Focus
どうもご無沙汰しておりました。
コメント欄の方でもちろっと書きましたがパリから帰ってきた途端に抜け抜けと風邪を引き、なんだかんだで忙しい木曜金曜をなんとか乗り越えて今に至る感じです。
パリではダダイズム三昧でありました。
Hannah Hoch "The Pretty Maiden"
Max Ernst "Chanson"
山川ゆき 「新宿ダダ」
最後のは検索で引っかかっただけなんですけどね・・
あまりにダダなので載せてしまいました。
ダダイズムはハンス・リヒターとかマン・レイとかがいわゆる「ダダ映画」なんてのも作っていて映画学とも関係があるので、機会があれば紹介したいところであります。
さてさて、そんなわけで大分間が空いてしまいましたが、今回は「市民ケーン」とDeep Focusについてですねー。グリフィスの登場やトーキーの登場のように「革命」ってな感じではないのですが、映画の発展の上でなかなか大事な部分です。今回は;
1、Deep Focus
2、「市民ケーン」
というような感じで。
「市民ケーン」1941年
監督:オーソン・ウェルズ
1、Deep Focus
「市民ケーン」ってのはか~なり複雑な映画でありまして、色んな角度から語ることができる映画なんですが、映画学の中で「市民ケーン」というとよく出てくるのがこのDeep Focus(ディープ・フォーカス)です。これはフォーカス、つまり画面の焦点が深くとってあるということですから、スクリーン上の空間の手前から奥まで全部に焦点が合っている状態をいいます。Deep Focusの反対は、フォーカスが浅い状態、Shallow Focusですね。
ちょうどテキトーな例を見つけましたよ。
上がDeep Focusで、下がShallow Focusってわけです。「市民ケーン」の大ヒットまでは、映画はほとんどShallow Focusで撮られておりました。技術的にもまだDeep Focusは難しかったんだと思います。
このDeep Focusってのは、上の金髪のおねーちゃんが出てる例だけ見ると別に大したことねー変化のような気がするわけですが、
こんな感じで、青い線で書いてあるa,b,cのように空間の中でカメラに対して垂直な一面しか捉えることができないわけです。まぁ実際のところは完全に「一面だけ」って感じでもないわけですが、根本的にはそうなるわけで、画面の構成は基本的に物語の中で必要なもの人が横並びに存在する、ってことになります。あくまで基本的にですが。
これに対してDeep Focusを使うと、上の図で言うa,b,cの別々の面に存在するものも同時にキチンと写せるわけですから、物語として語ることができる空間に奥行きがでます。例えばこんなこと;
「市民ケーン」の一場面
ができたりするんですね。もしこれがShallow focusだと、手前か奥かどちらかはピントがあってない状態になっちゃうわけです。また、今のは手前から奥までがテーブルで繋がっている、という画面構成でしたが、Deep focusを使うと、手前と奥で別々のことが起きている、ということもできます。これはちょうどいい写真がありまして、こちら;
「市民ケーン」の一場面
この場面では、手前で大人たちが話し合っていて、奥の部分では少年時代のケーンが外で遊んでいます。赤マルがついてますね。ここでは別々の二つの出来事をDeep focusを使って同時に見せているわけです。
こんな感じでDeep focusってのは、なかなか映画表現の可能性を広げるものだったんです。ただ、ほとんどの映画技術がそうであるように、このDeep focusも単なる技術革新というわけではなく、映画というものについての色んな問題や考え方を提示することになります。次回はそこらへんに触れて、あと「市民ケーン」の映画そのものについてもちょっとお話できればなと思います。
ではでは。
同じイギリスで映画学をしている方のblogに会えるなんて!
私は今はもう三年生で後一学期で終わりなので嬉しいような、寂しいような。
映画学ではアンチ・マルヴィーについて、「男性の対象化」についてを卒論で書いているのでその辺の分野が好きです。
よろしくお願いします♪
「新宿ダダ」気に入っていただけたのなら何よりであります。かなり投げやりな感じでアップした代物でございました。ただ一度見つけてしまった以上ほっとくわけにもいかず(笑)
>赤パンさん
はじめまして!書き込みありがとうございました。ロンドンで映画学を勉強なさっているとは、近いですねー。
アンチ・マルヴィーとか「男性の対象化」というと、すごくDepperさんの分野に近いですな(笑)。自分はそんなに詳しくない分野ですが、Visual Pleasure..はそこらへんツッコミどころかなりありますもんね。
ぜひまた遊びに来てくださいませ。